相続人に認知症・知的障害・精神障害の方がいる場合の遺産分割協議の方法(成年後見制度の活用方法)

事例②

高齢のAさんが亡くなりました。

Aさんには子供がおらず、配偶者もいないため、Aさんの兄弟であるBさん、Cさん、Dさんの3名が相続することになりました。

しかし、相続人の一人であるCさんは認知症を患い数年前から特別養護老人ホームに入所していて、遺産分割協議をすることができません。

こんな場合どうしたらよいでしょうか?

 

相続人の方が認知症になっている場合以外にも、精神障害知的障害などにより、判断能力が低下している場合も、同じように問題となります。

解決方法

 相続人の一人であるCさんが認知症のため遺産分割協議を行う判断能力がないので、Cさんに代わって遺産分割協議を行う人(成年後見人)を選ぶ必要があります。

認知症であるCさんを除いて、BさんDさんだけで勝手に遺産分割協議をしても無効です。

以下、解説していきます。

遺産分割協議とは

 仮に、亡くなられたAさんの配偶者の方(Xさん)がご存命なら配偶者のXさんと兄弟であるBさん、Cさん、Dさんの4名が遺産を相続することになります。

法定相続分は、配偶者のXさんが3/4残りの1/4を兄弟の人数で分けあうこと(1/4÷3=1/12 Bさん、Cさん、Dさんが各1/12ずつ)になります。

 

 一方、今回の事例のように亡くなられたAさんが既に配偶者の方に先立たれている場合(子供もいない)や、そもそも未婚であった場合には、兄弟だけが遺産を相続することになります。

(Bさん、Cさん、Dさんが各1/3ずつ)

 

法定相続分とは亡くなられた方(被相続人)の意思で相続分が指定されていない場合(遺言書が作られていない等、遺言書によって相続分が決められていない場合に適用される、各相続人の相続分のことです。民法900条で定められています。

 

遺産である相続財産には、不動産から預貯金、現金、株式や自動車や骨とう品といった動産等様々な種類の財産があると思いますが、具体的に誰が何をどれだけ取得するかを話し合うのが遺産分割協議です。(車はAさん、預貯金のうち○○円はBさんに、等)

遺産分割協議では、話合いで、法定相続分にとらわれずに自由に財産の分け方を決めることができます。

例えば、特定の方が相続財産の全部をもらい、残りの方は全く財産なし と取り決めすることも可能です。

 

但し、遺産分割協議をするには自分の行為がどういう意味合いをもつか、結果をもたらすのか、しっかり判断できる能力(判断能力)が必要となりますので、

認知症等によって判断能力が衰えていたり、低下している方がいる場合には、遺産分割協議をすることができません

 

今回の事例の場合、認知症であるCさんを除いて、BさんDさんだけで勝手に遺産分割協議をしても無効です。

相続人の一人であるCさんが認知症のため遺産分割協議を行う判断能力がないので、Cさんに代わって遺産分割協議を行う人(成年後見人)を選ぶ必要があります。

 

ここで、気を付けたい点が3点あります。

 

①遺産分割後も、成年後見は続きます!

 1点目は、①遺産分割協議を行うために成年後見制度を利用して、Cさんに成年後見人を選任してもらい、無事に遺産分割協議を行った後も、成年後見は続くということです。

成年後見制度の利用の当初の目的である遺産分割協議が済んだからといって、成年後見は終了せずにCさんが判断能力を回復するか、亡くなるまで成年後見はずっと続きます。

 

そして、成年後見人に司法書士等の専門職が選ばれた場合には、毎月その報酬が亡くなるまでずっと必要になってきます。

本人の財産が1000万円以下の場合は、毎月約2万円程度の報酬額になることが多いようです。

②法定相続分の確保

 2点目は、、②成年後見制度は本人であるCさんを保護するための制度ですから、Cさんの法定相続分を確保することが求められます。

 

例えば、BさんとDさんが、認知症のCさんはお金を使うこともできないだろうし、遺産を分けても仕方ないだろうと考えて、二人で「相続財産は全部Bさんがもらう、Cさんは法定相続分を放棄して」といったようなことを話し合いで決めていても、Cさんの成年後見人はそのような遺産分割協議に賛成できません。

 

成年後見制度は、判断能力が低下している本人を保護することを目的としています。

本人を守るための制度であって、子供や親族等の利益を図るための制度ではありません。

成年後見人は、遺産分割協議をするにあたって、その内容につき家庭裁判所の許可を得なければなりませんが、本人の保護に反するような例示の遺産分割協議の内容では、家庭裁判所の許可がそもそもおりません。

③成年後見人候補者と申立ての取下げ

 3点目は、③成年後見の申立てにあたって、成年後見人の候補者を申立書に記載することができますが、候補者に挙げられている方が必ず選ばれるとは限りません。

 

例えば、認知症のCさんを介護してくれたり、ずっと面倒を看てきた子供やご親族の方がいる場合(仮にYさん)、本人であるCさんのことを一番よく分かっていて、Cさんの信頼もあついYさんに成年後見人になってもらうことが望ましいですが、誰を成年後見人に選ぶかは家庭裁判所が本人のことを考えて総合的に判断しますので、候補者に挙げられていない第三者(例えば、司法書士や弁護士等の専門職)が選ばれることもあります。

 

遺産分割協議をする予定である場合や、本人の財産が高額な場合、親族間に対立があるような場合は、中立的な立場の司法書士等の専門家が選ばれることが多いですし、

面倒を見てくれている子供等のご親族が成年後見人に選ばれることがあっても、その成年後見人を監督するための成年後見監督人(成年後見人が悪いことをしないように監督したり、業務を支援する人)が選ばれたりすることもあります。

 

成年後見制度の申立てにあたって、成年後見人の候補者として上記Yさんを申立書に記載して、申立てを行ったけれど、Yさんが成年後見人に選ばれなかったり、家族以外の専門家が関わってくるならば、成年後見制度の申立てを止めたいと考えて、申立てを取下げようしても、一度申立てを行うと取下げるにあたっても、家庭裁判所の許可が必要となります。

思い通りにいかないからといって勝手に申立てを取下げて、なかったことにすることはできないことに注意です。

本人を保護する必要性があったからこそ、成年後見の申立てをしたのですから、本人保護の目的を果たさずして、申立人の勝手な事情でなかったことにすることはできないのです。

 

 高齢化社会が進んでいる昨今では、亡くなられた方(被相続人)の高齢化が進んでいるとともに、相続する側の相続人も高齢となってきており、それに合わせて相続人の方に認知症等で判断能力が低下している方が含まれている場合が増えてきています。

当事務所では今回の事例のような場合の成年後見制度の申立てや遺産分割協議も経験しておりますので、ご相談していただければ、お力になれるものと思います。

 

当事務所では判断能力が低下されている方そのご親族の方まだ判断能力はしっかりしているけれど身内等と疎遠で将来に不安を感じている方ケアマネジャーさん等からの成年後見(法定後見・任意後見)に関するお悩み・疑問・相談等を承っております。

 

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